眠るのは彼女の胸で 6


時は2年ほど前。
1人の女の子が上京した…幼馴染の少年と一緒に。

「キョーコ、オレは東京でビッグになる!お前もこんな田舎にいたって仕方ないだろ?一緒に来いよ!」

「うん!私ショーちゃんに着いてく!」

これが歯車の狂い始め。
運命の分かれ道?


田舎から出て来た2人が行き着いたのは東京、新宿。大きなビルが何本も建ち並び行き交う人々は地元では見たことがない速さで歩いていく。ネオンの光る繁華街にキョーコは大きな目をパチクリ、あんぐりと口を開け、立ち止まった。

「何やってんだよ!行くぞ‼︎」

必要最低限のものだけ詰めたカバンを肩に引っ掛けた少年‥‥不破松太郎は苛立ちながらずんずんと人混みを進んでいく。

行き着いたのは歌舞伎町から少し離れた古臭い雑居ビルの4階。エレベーターもないそのビルの一室のドアを開けた。カビ臭い、六畳ほどのガランとしたその部屋にはかろうじてキッチンとシャワー室。

「お前もさっさと仕事見つけて出てけよ?」

とりあえず寝るとこだけでも綺麗にと雑巾がけをしていたキョーコはえ?と顔を上げた。

「一緒に‥…住めないの?」

「妹だってごまかして仕事が決まるまでって店長と約束してんだよ。オレがこの店で上手いことトップになったら呼び戻すからよ、それまでお前も住み込みとか寮とか着いてる店探せよ。あー、疲れた!歳ごまかして面接もめんどくせーな」

カバンを枕にゴロンと横になった松太郎はすぐに寝息を立て始めた。

この時、キョーコは気づけばよかった。
この男が全くキョーコと住むつもりはないと。
キョーコが働いて働いて体がボロボロになるまで働いて稼いだお金を全てこの男が持って行ってしまうことなど

この時点では全く気付きようがないのである。

※※※※※※※
いつぶりだろうか‥‥。
久しぶり過ぎて文章おかしいですけどね。
ちょっと待ちぼうけをくらってるので隙間産業を久々に開催してみます。

あと1個か2個、書いてみようかと思います!

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眠るのは彼女の胸で 5




【あの】敦賀蓮が腹を抱えて爆笑している。それは同業者にしてみれば……怖い以外の何者でもない。

【あの】敦賀蓮が
【あの】伝説のホストが

同業者の全てが憧れや畏怖を抱いている【あの】敦賀蓮が

たかが弁当屋の看板娘に説教されている姿を見ているには忍びない。

キョーコの言いつけ通り一番後ろに並んだ蓮は笑いを堪え、時折また思い出したように吹き出し笑う。その様子を見ていた同業者達は

触らぬ神に祟り無し。
見て見ぬ振りを決め込んだのである。




自分の番が来てようやく蓮はこの少女をまじまじと見ることが出来た。

「いらっしゃいませ、何にしましょうか?」

年は…十代?いや、二十歳くらいか?
夜の世界には縁のない、水商売とは程遠い、化粧っ気のない、明るく健康的な…蓮の周りにはいないタイプの女の子。

「いや、弁当を買いに来た訳じゃないんだ」

キョーコは営業用スマイルから一転、首を傾げた。可愛らしく小首を傾げる姿と先ほどの物言いのギャップが面白可笑しく蓮はまた吹き出しそうになる。

「……どういったご用件でしょうか」

「昨日はありがとう」

「…?」

「フルーツ切ってくれたのは君だよね?」

「……?」

キョーコは一瞬、なんのことかわからずにまた小首を傾げた。その様子がまた可愛いらしくて…蓮も思わず固まった。

美人は職業柄見飽きてる。
可愛い女の子も腐るほど。

だが、それとはまた別の。
ショーケースの隔たりがなければ思わず手を伸ばして撫でてしまいたくなるほどの。

…って、何考えた、俺?

一つ咳払いをして、気持ちを戻す。

「っと、名乗るのが遅れたね。俺は【久遠】のオーナー」

「【久遠】の……?マスターのお客様ですよね……」

そこまで言ってキョーコの手が止まった。
【久遠】と言えばマスターが唯一無条件で注文を受ける店。そこのオーナー!?と気づいた時には遅かった。

「も、も、申し訳ありません~~!!」

あろうことかマスターのお客様にあんな説教じみたことを口走り、更には指まで指してしまったキョーコは平謝り、ショーケースに頭をぶつけてしまう勢いで謝る。

「顔上げて?こちらがお礼に来たんだ。そうだ、これ。受け取って」

蓮はリボンのかかった茶色の箱をキョーコにかざす。

「貰い物で申し訳ないけど、うちの店のピンチを救ってくれたお礼。それに君のフルーツはお客様に好評だったんだ。次もお願いしたいくらいだよ?」

何百何千の客の女性を虜にしてきた笑顔を浮かべた蓮をキョーコは初めてしっかりと見つめた。

今まで出会ったことのないくらい秀麗な顔。【久遠】はまだ出来たばかりの店だと聞いてはいたが一番の繁盛店だと聞いている。

…こんな人がオーナーなら納得だわ。天然タラシってこんな顔してるのよ……それに…なんでみんな遠巻きに見てるの?この人……アブナい人?きっとそうだわ。マスターのご贔屓だから申し訳ないけど…。


一人、勝手に解釈をしてあまり近づかない方が得策だと考えたキョーコは、ここは静かにお帰りになってもらおうと営業スマイルを蓮に向けた。 現に蓮が店前にいるだけで周りの人が(気を使って)だるまやの前から遠ざかってこちらの様子をうかがっている。

「お気遣いなく。お気持ちだけ有り難く頂戴致します。…お客様でないと仰るのでしたらどうぞお引き取りください」

敦賀蓮にその態度……遠巻きに見守る人々は悲鳴を飲み込んだ。

完全な営業スマイル、目が笑っていないキョーコに蓮は興味を覚えた。今まで女性にそんな反応をされたことは一度もない。それなりに自分の容姿にも自信がある。蓮が微笑めば女性という女性はイチコロだというのに。

「…ふうん。君面白いね。まぁいいさ。また来るよ」

少し先に停めてある車に向かいながら手を振る蓮の背中に大声が響く。

「今度はお弁当買ってくださいねー!それよりナイフの手入れはしっかりしたほうがいいですよー!あんな切れ味じゃフルーツだって可哀想です!!」

その声に蓮は立ち止まり(ギャグ漫画ならずっこけてしまうのだがここは敢えて止めてみよう)……大真面目に弁当を買えだのナイフの手入れなどと言うものだからまた盛大に吹き出した。




「…楽しそうだな、蓮。ちゃんとお礼してきたのか?」

あまり笑うことのない蓮が車に乗り込んでからも吹き出して笑う様に社は首を傾げるばかり。何より置いてくるはずだったケーキの箱を持ち帰って来たものだから社の疑問は増えるばかり。

「あ……」

「おいおい、今気づいたのか?何しに行ったんだよお前…大丈夫か?」

手元に残る茶色の箱。

……俺からモノを受け取らないオンナなんて…初めてかもしれない。


箱を見つめながら蓮はまた笑う。その顔に社は驚いた。

社ですら初めて見る笑顔。
男の社ですら赤面するほどの。



…なんだ、コイツ。恋でもしたみたいな顔して。





これが蓮とキョーコの初対面の朝であった。




*********
まっじでヒトメボレ~♪って脳内グルグル。

……いや、ヒトメボレとは違うけど。
恋する乙女、否、乙男になるのはもうちょっと先。


眠るのは彼女の胸で 4




ゴミ山の上で寝る若い男
若いホステスの甲高い笑い声
足元の覚束ないサラリーマン
爽やかに走り抜ける新聞配達員

おしぼりやシーツ、食品、酒の納品業者
訳ありな男女

ゴミを漁る大きな鴉。

そんないつもと同じ朝だった。




蓮が車を回した場所は店から道二本過ぎて右の路地を曲がり、区役所が左手に見える少し広めの通り。

花屋、ガールズバー、立ち飲み屋の並び。
赤板に黒の文字で【だるまや】とかかれた小さな間口の弁当屋。

歌舞伎町の中でも有名な弁当屋だった。

この業界、どうしても疎かになる食生活。
昔は注がれた酒を客にバレないように絨毯敷きの床に流していたがそんな時代は過去の話。今は飲んでなんぼの水商売。

若いホスト達はなかなか自炊まで手が行かず。コンビニ弁当で誤魔化すことの多いこの世の中。

この【だるまや】のお弁当は母の味。
胃にも優しい、お財布にも優しい、おかみさんは厳しくも一人一人に声をかけ、1日の仕事を労ってくれる。そんな店だった。

蓮は若いときから食にこだわりもなければ特に身体も壊したことはなく。
この【だるまや】の弁当にお世話になることはなかったのだが。

【達磨亭】にはやっかいになっていたのでおかみさんとも顔見知り。達磨亭で仕事前すっきりとした味わいのマスターの淹れる珈琲を飲み、勘定を済ませると無言でマスターがスッと差し出す野菜重視の煮物の類。

蓮の身体を心配するおかみさんからの差し入れを、当時の蓮は老若男女が裸足で逃げ出す笑顔を浮かべ、マスターから受け取っていたのである。

今現在、この笑顔はとある日常でしか見ることは出来ない。

しかし、毎朝いつも同じ時間に開いていた【だるまや】が月に数回閉めることが増えてきた。予約がいっぱいだったり、おかみさんの持病が出たり。  

おかみさんは「ウチの味が変わってしまうのは嫌なんだよ」と人を入れることはせず。

何年もそんなことが続いていた。




蓮は車を止めさせ、だるまやの店まで歩く。二重にもなる、群がる同業者の向こう側。

商品ケースから覗く赤いバンダナの三角巾が右に左に動いている。

「キョーコちゃん、お願い!!」

「今忙しいので後にしてくださいねー、はい、うま煮弁当。これお釣り。ありがとうございました~!!」

「キョーコちゃん、遊びに来てよ!キョーコちゃんならお金いらないからさ」

「そんなこと言ってたら№1なんて遠い夢ですよ!田舎のご両親早く楽にしてあげて下さい。はい、鮭弁当。お釣り20円ね」


キョーコちゃんと呼ばれる、このポンポンと小気味よく客を捌く女の子が達磨亭のマスターが言っていた【キョーコ】らしい。

蓮は二重の人垣の一番後ろにいたが、蓮に気づいた外側のホスト達が伝説の男の登場に驚き、道を開けた。パッカリと開いた真ん中に割って入る男が目に入りキョーコは顔を上げた。

「ちょっとお兄さん!!みんな並んでるんだから順番は守らなきゃ!!」

キョーコは蓮の顔など知らない。
蓮がこの新宿歌舞伎町夜王街でどれだけ有名だなんて知ったこっちゃない。

「ちょ、キョーコちゃん!!敦賀さんにそんな口聞いちゃ……」

馴染みのホストがキョーコの対応に驚いて止めようとするがキョーコは【超】が付くほどそのあたりは法令遵守、特別扱いなんて全くしない。何より蓮を知らないのだから仕方がない。

「みんな汗水流してお腹空かせて働いてるんだから。そこの大きいお兄さん!!」

ビシッと人差し指を蓮に向けて。

「一番後ろに並んでちょーだい!!」

真顔で蓮に言い放ったのである。




敦賀蓮。
歌舞伎町の、否、日本一のホストと言われ、一日で億をも稼いだ伝説のホスト。

自分より若い、少女のような女の子に同業者のど真ん中で説教をされ指をさされ







……………大爆笑するのである。



*********
久々にホスト蓮さん。
うぎゃーー!!3ヶ月半ぶりだわ…。

行き詰まってるの……若者に。
若者暴走しそうなんだもん。

若いって素晴らしい!!←年寄り発言。

眠るのは彼女の胸で 3





眠らない街、新宿。
不夜城とはどこぞの言葉だったか。

夜も昼も道を歩く人の数は変わらない。

変わるのは人々の姿。
昼はお堅いサラリーマンにOL。
夜はほろ酔いの男女。

旧コマを歩けば
「ねぇ、おねーさん寄ってきませんか?」
「おにーさん、イイコいるよ?」

これはまだ罰則も何もないゴジラもいない
無法地帯新宿の頃。

売上の伸びない新人のホスト達は毎夜声をかけては名刺を渡す。ランク付けは当たり前。この世界では指名が命。

「初回は二時間¥5,000。おねーさんカワイイから¥3,000にしておくからさ。どう?」
 
行き交う人々は日々の鬱憤を晴らしにネオンの中に消えていく。






蓮は達磨亭から店に戻り、各テーブルに挨拶をして回る。もともと新宿、否、日本一の腕利きのホスト。

従業員であるホスト達も皆選び抜かれた者ばかり。店内は女性客の明るい声が響き今日の営業もスムーズに閉店を迎えた。

「社さん、売上行きました?」

「あぁ。ノルマ達成。もう少し新規は容れたいけど……って、なぁ、蓮、いい加減俺の呼び名気をつけろよ?お前がオーナーなんだから」

社は蓮の大学時代の先輩で蓮の経営パートナーである。表舞台には一切出る事はなく経営一切を任されていた。

「大丈夫ですよ。そのあたりは抜かりありません」

「まぁな、それより達磨亭には挨拶出来たのか?週末大口が入っているからまたお願いしないと」

「……社さん、帰りに少し寄ってもらいたいところがあるのですが」

蓮は達磨亭での話を社に伝えた。

「ふーん、じゃあその女の子がだるまやのおかみさんのところにいるのか。珍しいな、あの夫妻が人入れるの」

「えぇ、…何かお礼がしたいんですがこの時間じゃあどこも開いてないですし」

そうだなぁ……と

「三笠様にケンズのケーキ差し入れてもらったから持って行ったらどうだ?たくさんあるしどうせお前食わないだろ?」

「そうですね…甘いものなら女の子なら嬉しいですかね?」

世間一般の女子なら嬉しいだろうとの判断で白箱に入った生チョコケーキを袋に入れる。

「もうちょいで集計終わるから、ちょっと待ってろ」




「「「おつかれっしたーーっ」」」

蓮と社が奥から出てくると既に終令を終えたホスト達従業員が整列して本日の終わりを迎える。

「今日は皆に迷惑をかけた。すまない」

オープン時の失態を詫びるオーナーの潔さに従業員達はまた蓮に惚れ直す。

「オーナーのせいではありません」

「私たち従業員一同の責任ですから」

「日本一の店、作りましょう!!」

蓮はホスト達を労い、一人一人に声をかけていく。

「オーナーから皆にお詫びだと預かった。貴島、お前に預けるから行けるやつに朝飯食わせてやれ」

社は蓮から預かった万券数枚をNo.1である貴島に渡す。

「「「ありがとうございっしたー!」」」

蓮は片手を上げ店を出る。
明るくなり始めた歌舞伎町は夜の賑やかさとはまた別の色を出し始める。
表玄関に横付けされた黒塗りの車の後部座席に社と乗り込み髪に指を差し入れてセットされた髪を崩した。

「だるまやに行ってくれ」




そうして蓮は出会うのである。


***********
……趣味です。所詮。

眠るのは彼女の胸で 2





歌舞伎町大通り。
路地を左に入ったところにホストクラブが立ち並ぶ一角がある。

通称『夜王街』。
近年のホスト業界はあまり業績の良い世界ではない。
24時間営業を唱ったり、人気ホストの引き抜きに躍起になったり、No.1自身が独立したりと一時のブームは下火のこの業界で、着実に業績を伸ばしている店舗がある。

ホストクラブ【久遠】

今やこの業界No.1、歌舞伎町夜王街で知らないものはいないホストクラブである。


一流のホストクラブと銘打ち、店内の装飾からグラス一つに至るまで洗練された大人の遊び場。勿論、従業員であるホスト達も皆しっかりした教養を持ち、一夜の夢を買う女たちに対価以上の夢を与えるのである。

しかし、まだオープン間もない頃は問題は日々起きていた。








時は数年前に遡る。


「火傷!?今日は三笠様がオープンからだろう!!」

「申し訳ありません!!」






この日、まだ学生だったキョーコはバイト先のおかみと大量発注のお弁当を近くの区役所に届けた。石造りの古い建物で何故煌びやかなネオンいっぱいの歌舞伎町にこんな建物が建っているのかはこの地域の七不思議。

「キョーコちゃん、悪いけど達磨亭行って久遠の盛り合わせもらってきてそのまま届けてくれる?」

台車をたたみながらおかみさんは腰を叩きながらキョーコに声をかけた。

「一度戻ってからでも大丈夫ですよ?」

「台車は私が転がすから。どうせ裏なんだし。あ、久遠の裏口解るかい?今日は裏口搬入なんだよ。解らなかったらあの人に聞いとくれ」 

「はい。じゃあ行ってきます」


区役所の裏に美味しい軽食と珈琲を淹れてくれる店がある。達磨亭はロマンスグレーで赤い蝶ネクタイがトレードマークのマスターが切り盛りしている昔ながらの喫茶店。無口なマスターの淹れる珈琲はこのあたりでは美味しくて有名。たまに粋がったチンピラ共がいちゃもんをつけたりするが、だいたい常連の客は○○組の組長だったりするので問題はさほど起きない。実はこのマスター、お弁当屋のおかみさんの旦那さんなのだけれど。

何よりマスターが一番怖いと言うのもこのあたりでは有名な話である。



「おはようございますー!盛り合わせ届けに来ましたー!」

裏口から厨房に声をかけると中はてんやわんやの大騒ぎ。厨房係は姿を見せず若いフロアーの黒服達がばたばたと手を動かしている。

「あの…何か…あったんですか?」

「あぁ、ちょっとね。達磨亭来ましたー!!」

「仕方ない、達磨亭の盛り合わせを先に、あとはフルーツでいい!!30分持たせるんだ!!」

声を出しているのは責任者なのか、フロアーから怒声が飛ぶ。

キョーコがアルバイトをしているお弁当屋にもよくホストクラブから予約は入る。だいたいバイトの若いお兄さんが裏方で料理を(軽食程度だが)作るのが常だが手の込んだものは近くの店に頼むのが常套。


おぼつかない手でフルーツを切る若い黒服の手つきにキョーコはいても立ってもいられず思わず手を出した。

「あぁ、もうっ!!貸して!!!」

腕に付けていた髪ゴムで髪を一つにまとめて結い上げる。腕まくりをしてナイフを奪うと器用な手つきでカゴのフルーツを剥きだした。

「何コレ!?こんなナイフで果物なんか切れないわよ!?」

キョーコは手頃なお皿の裏にナイフの刃を当て研ぐ。イヤな音が耳につくがこの際無視していただこう。

研いだナイフは辛うじて本来の姿を取り戻しサクサクと果物を切りわける。果物たちはみずみずしい切り口を存分に見せつけていた。

「はい、お兄さん。刃物のお手入れはしっかりね。じゃあ、お代は先払いでいただいてるので盛り合わせ、おいて置くから!」

あっという間にカゴの果物を綺麗に仕上げて立ち去った女の子を若い黒服は呆然と見送った。




「フルーツ出来上がったのか?……なんだ、切れるじゃないか」

メロンは食べやすく一口大に、パイナップルは南国風に外身もお皿にご丁寧に葉まで飾りとして、オレンジやキウィも飾り切り、りんごは色が変わらないように塩水に漬けて。

蓮は思いのほか手際の良い新人の黒服を誉めた。

「いや、オーナー、違うんです。達磨亭の盛り合わせを届けた女の子がちゃちゃっと…………」

「達磨亭の女の子?」

蓮は達磨亭に女の子のバイトなんかいたのか?と思い出してみるが脳裏に浮かぶのはマスターの選曲したジャズの邪魔にならない音量と無表情のマスターしか覚えがない。

「オープンだ、開けるぞ」

…後でお礼にいかなければならないな。

とにかく今は大口の客に穴は開けられないと蓮は気を引き締めた。


俗に言う【太い客】である三笠は蓮が新人の頃からの客である。

「蓮くん、素敵なお店に仕上がったじゃない。後はそうね、お料理がちゃんと出来てれば問題無いけれど今日のフルーツは素敵だったわ。女の子たちが喜びそうね。また寄らせてもらうわ」

「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」


三笠を見送り、変わりの料理人の手配も済み蓮は一息ついた頃合いを見計らって達磨亭を覗いた。既に22時を回り、達磨亭にはcloseの看板が出ていたが中に明かりが付いている。

からん。
「…もう閉めたぞ」

チラリと蓮を見て、また仕込みに入るマスターに蓮は頭を下げた。

「盛り合わせ、ありがとうございました。お客様も喜んで下さいました。それから…もう一つお礼に来ました」

カチャカチャと手を動かしていたマスターは手を止めて蓮を見た。

「なんだ?」

「女の子がトラブルの窮地を救ってくださいました。達磨亭の方だと伺いお礼に来ました」

「あぁ、キョーコか?ツレの店にいるよ。もう帰ったんで朝にでもあっちへ行ってくれ」

達磨亭にはかれこれ10年以上通っている蓮だったが、その間気難しく口数の少ないマスターの達磨亭も朗らかな奥さんが営む弁当屋のだるまやも他人が入ることを許さず、ずっと二人で切り盛りしていたと記憶している。


…珍しいな。


場所柄、深く詮索しないのがこの街のルール。蓮は口には出さずマスターにもう一度頭を下げて店を出た。






蓮はネオンの光る街を見据えて歩き出す。


まだ…夜は始まったばかり。




  

◆◆◆◆◆◆◆◆
注※ゆみーのん、ホストクラブに行ったことはございませんがホストクラブに料理を頼まれていたお店には交流があります。全てねつ造ですので色々ご容赦下さいませ。
プロフィール

ゆみーのん

Author:ゆみーのん
日々を戦う4人のおかん。なぜかすっかり駄文書き。
妄想はいつでもどこでも誰とでも‼‼

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